目次(もくじ)
- 1 都会の喧騒から逃れて――江の島への小さな旅のはじまり
- 2 新宿からわずか1時間、湘南の風を感じる電車旅
- 3 江の島駅に降り立った瞬間から始まる、非日常の空気
- 4 海と空が迎えてくれる江の島弁天橋の絶景ウォーク
- 5 朝のカフェタイムは「ENOSHIMA LONCAFE」で絶品フレンチトーストを
- 6 江の島シーキャンドルから望む、水平線のきらめきと心の解放
- 7 古民家カフェ「紀の国屋本店」で味わう、地元食材のやさしいランチ
- 8 岩屋洞窟で体験する、神秘と静けさに包まれたひととき
- 9 海辺に広がる「稚児ヶ淵」の風景に、時を忘れて座る午後
- 10 サンセットクルーズで体験する、湘南の海がくれる魔法の時間
- 11 帰り道に立ち寄りたい、江の島駅近くの地元グルメ「しらす丼」
- 12 旅の終わりに感じる“ただいま”のような、心に残るあたたかさ
- 13 まとめ
都会の喧騒から逃れて――江の島への小さな旅のはじまり
東京での生活はいつも忙しなく、朝から晩まで人と電車と時間に追われる日々が続く。そんな毎日の中でふと立ち止まり、「ちょっとどこかに行きたい」と思うことはないだろうか。遠くへ行くのは難しくても、心をリセットできる場所は意外と身近にある。今回の旅の目的地は、神奈川県の湘南エリアにある江の島。海、自然、歴史、グルメ、癒し——すべてがコンパクトに詰まったこの島は、まさに都会の喧騒を忘れるのにぴったりな場所だ。
特別な準備は必要ない。スマホひとつ、リュックひとつあればそれで十分。旅行というより、深呼吸をしに行くような感覚で、気軽に日帰りで訪れることができる。実際、都心から電車でたったの1時間程度で行けるアクセスの良さも、江の島の魅力のひとつ。喧騒と情報に溢れた都市生活から少しだけ離れ、潮風に包まれる時間を求めて、私はこの旅に出ることにした。
江の島という名前を聞いたことがあっても、実際に訪れたことがない人も多いかもしれない。だが、ここには静かで優しい時間が流れており、訪れる人の心を柔らかくしてくれる力がある。どこか懐かしくて、新しい。そんな不思議な空気感に包まれた場所なのだ。今回の記事では、そんな江の島の魅力を、実際に歩いた順に紹介していく。目を閉じて読めば、波の音が聞こえてくるような、そんな旅の記録をお届けしたい。
新宿からわずか1時間、湘南の風を感じる電車旅
旅の始まりは、新宿駅の小田急線ホーム。朝9時過ぎのロマンスカーに乗り込むと、車窓の外には次第に都会の高層ビル群が減り、緑と住宅街、そして時おり顔を出す青空が目に入るようになる。車内は静かで、窓から差し込む陽光が心地よい。電車に揺られるこの時間もまた、旅の一部。普段の生活の中では、こんなにゆったりと外を眺める余裕はなかなか持てない。
藤沢駅で江ノ電に乗り換えると、さらに旅情は深まる。ガタゴトと揺れるレトロな車両、窓のすぐ外をすり抜けるように流れる街並みと海辺の風景。観光客だけでなく、地元の人々も普通に利用している姿が、どこか親しみを感じさせてくれる。特に腰越駅を過ぎたあたりで見える海の青さは、何度見ても息を呑む美しさだ。
このわずか1時間ちょっとの電車旅が、まるで違う世界へと連れて行ってくれる。時間もお金もあまりかからない。でも、心は確実にリフレッシュできる。駅から駅へと移動しているだけなのに、自分の中の風景が大きく変わっていく感覚。それこそが、この旅の醍醐味なのだと思う。
そして、江ノ島駅に到着するころには、心の中に少しずつ余白が戻ってくる。「今日一日、ただ自分のために使おう」と思える時間が、ここから始まる。
江の島駅に降り立った瞬間から始まる、非日常の空気
江ノ電の車両がゆっくりと江ノ島駅に滑り込むと、まず目に飛び込んでくるのは木造の温かみある駅舎。都会の近代的なターミナル駅とはまったく違う雰囲気がそこにはある。改札を抜けると、どこか昭和の面影を残した商店街が目の前に広がり、海へと続く道がまっすぐに延びている。駅前の空気は少し塩の匂いが混ざり、心地よい海風が頬をなでる。まさに「非日常」への入口だ。
駅前には観光マップやレンタサイクルの案内、カフェや土産物店が立ち並び、旅人たちがわくわくとした表情で行き交っている。ふと見上げると、空が広い。高層ビルに囲まれて暮らしていると、こんなに空を広く感じること自体が新鮮に思える。
小道に入れば、古い木造家屋を改装した雑貨屋やカフェ、猫がのんびり日向ぼっこしている路地裏風景が広がる。ここでは、時間の流れがほんの少しだけゆっくりになったような錯覚に陥る。観光地でありながら、どこか地元の人たちの暮らしの匂いもする。そこが江の島駅周辺の面白いところだ。
何気ない街角に目を向けるだけでも、普段の生活では見落としてしまうような美しさがたくさん隠れている。たとえば、店先に吊るされた風鈴の音や、壁に描かれた小さな魚のイラスト、道端の花壇に咲く季節の花。それらが旅の始まりを穏やかに彩ってくれる。
江の島というと海や神社を目指す人が多いが、まずはこの「駅に降り立った瞬間の空気」を感じてほしい。ここにしかない、柔らかく静かな旅の始まりが、確かに存在している。
海と空が迎えてくれる江の島弁天橋の絶景ウォーク
江ノ島駅からしばらく歩くと、いよいよ海が視界に現れる。そして、その海の上をまっすぐに延びるのが「江の島弁天橋」だ。この橋は、陸地から江の島へと渡る唯一の道で、まるで海の上を歩いているかのような感覚を味わえる。橋を渡るという行為自体が、どこか象徴的だ。まさに「日常から非日常へ」の境界線を越えていくような気持ちになる。
橋の上からは、左右に広がる湘南の海と空の大パノラマが広がる。晴れた日には遠くに富士山がうっすらと姿を見せることもあり、その雄大な風景には思わず足を止めて見入ってしまう。潮風が顔にあたるたびに、身体の中の疲れがひとつずつ洗い流されていくような感覚がある。橋の上では、観光客だけでなく、地元の人たちがのんびり散歩をしていたり、犬を連れて歩いていたり、日常と観光が交差する場所でもある。
また、橋の両端には観光案内所や売店もあり、ここでアイスクリームや焼き団子を買って歩く人の姿も多く見かける。季節によっては海の上にカモメが舞い、夕暮れ時には真っ赤な太陽が水平線に沈んでいくさまをここから見ることもできる。まるで映画のワンシーンのような光景が、何の前触れもなく目の前に広がるのだ。
江の島弁天橋は単なる通過点ではなく、旅のテンションを一段上げてくれる場所。普段は目的地に急ぎがちな私たちに、「歩くことそのものの楽しさ」を思い出させてくれる。橋を渡りきったとき、きっと心がふわりと軽くなっているのを感じるはずだ。
朝のカフェタイムは「ENOSHIMA LONCAFE」で絶品フレンチトーストを
江の島の旅で、朝のひとときを贅沢に過ごすなら「ENOSHIMA LONCAFE(ロンカフェ)」は絶対に外せないスポットだ。島の中腹、サムエル・コッキング苑という植物園の一角にあるこのカフェは、日本初のフレンチトースト専門店としても知られている。海と空を望む絶好のロケーションにあり、テラス席に座れば、湘南の爽やかな風を感じながら食事を楽しむことができる。
このカフェのフレンチトーストは、まるでスイーツのように美しい盛り付けで運ばれてくる。外はカリッと香ばしく、中はふんわりとろけるような食感が特徴。定番のキャラメルソースにバニラアイスがのったメニューは、甘さと塩気のバランスが絶妙で、一口食べるごとに思わず笑みがこぼれる美味しさだ。季節限定のフルーツを使ったメニューも多く、何度訪れても飽きることがない。
店内はこぢんまりとしていながらも洗練された雰囲気で、木製の家具や観葉植物が落ち着きを与えてくれる。テラス席からは江の島の海岸線が一望でき、朝の光を受けてきらきらと輝く海を眺めながらいただく食事は、まさに“非日常”そのもの。食後にはこだわりのコーヒーや紅茶を楽しみながら、のんびりと時間を過ごす人も多い。
また、サムエル・コッキング苑の中にあるため、食後にはそのまま園内を散策するのもおすすめだ。色とりどりの花々に囲まれた遊歩道を歩きながら、軽やかな気分で一日をスタートできる。朝の江の島で、最高に気持ちのいい時間を過ごすなら、「ENOSHIMA LONCAFE」でのひとときはぜひ体験してほしい。
観光地の朝はどうしても慌ただしくなりがちだが、ここでは時間がゆったりと流れる。フレンチトーストの甘い香りと海風に包まれながら、ゆっくりと目を覚ますこの時間こそ、江の島の魅力を感じるための第一歩だ。
江の島シーキャンドルから望む、水平線のきらめきと心の解放
ENOSHIMA LONCAFEを出て、坂道を少し登ると見えてくるのが、江の島のランドマークとも言える「江の島シーキャンドル」だ。正式名称は「江の島展望灯台」だが、地元の人や観光客の間では「シーキャンドル」の愛称で親しまれている。この展望台は、サムエル・コッキング苑の中心にあり、江の島の海抜119.6メートル地点に位置している。
エレベーターで展望台の上部に到着すると、そこに広がるのは言葉を失うほどの大パノラマ。晴れていれば富士山はもちろん、三浦半島や房総半島までも一望できる。360度、どこを見ても遮るものはなく、ただただ青い空と海が広がっている。特に朝から昼にかけての時間帯は光が美しく、水平線が輝いて見える瞬間は心を打つ。
展望台の上は風が強いこともあるが、それがまた心地よく感じる。潮風に髪をなびかせながら深呼吸すれば、まるで身体の中の空気がすべて入れ替わるような気分になる。日常のストレスや悩みごとも、この景色の中ではちっぽけに思えてしまう。心が自然と軽くなり、ただそこにいること自体が心地よい。まさに「解放される」瞬間だ。
夜にはライトアップされ、幻想的な姿へと変わるシーキャンドルだが、昼間の明るい時間帯に訪れることで、太陽のエネルギーをたっぷりと感じることができる。展望デッキから手を広げて風を感じると、不思議と前向きな気持ちが湧いてくるのだ。
江の島に来たなら、ぜひとも足を運びたいこの場所は、単なる観光名所にとどまらない。自分自身と向き合い、心を整える場所として、多くの人にとって特別な意味を持つだろう。旅の途中で立ち寄るには贅沢すぎるほどの時間が、ここには広がっている。
古民家カフェ「紀の国屋本店」で味わう、地元食材のやさしいランチ
江の島の坂道を下っていくと、観光客でにぎわう表通りとは少し違った、静かな通りに入ることができる。そこにひっそりと佇むのが、築100年以上の古民家を活かした「紀の国屋本店」だ。派手な看板や目立つ外観はないが、それがまたこの店の魅力を引き立てている。木の引き戸を開けて中に入ると、どこか懐かしく落ち着いた雰囲気が広がり、まるで祖父母の家に帰ってきたような安心感がある。
紀の国屋では、湘南の地元食材をふんだんに使ったランチメニューが人気で、特に「しらす御膳」や「野菜のせいろ蒸し膳」などは、体にも心にも優しい味わいが詰まっている。しらすは江の島名物でもあり、ここで提供されるものはその日の朝に獲れた新鮮なものが中心。ご飯の上にふんだんに盛られた釜揚げしらすは、ふっくらとしていて、ほんのり甘みがある。醤油や大根おろしと一緒にいただけば、その旨みが一層引き立つ。
また、店内には木のテーブルと畳の座敷があり、まるで古き良き日本の暮らしにタイムスリップしたような気分になる。窓から差し込む柔らかな陽光と、静かに流れるジャズのBGMが、旅の途中で疲れた身体をそっと包み込んでくれるようだ。
観光地にありがちな「せかされる食事」とはまったく無縁のこの店では、食事の時間そのものが癒しとなる。料理の味だけでなく、器や盛り付け、店内の空気すべてが丁寧に整えられており、一皿一皿に店主のこだわりとやさしさが感じられる。
江の島には多くの飲食店があるが、「紀の国屋本店」はその中でも特に“江の島の暮らし”を感じさせてくれる場所だ。ただお腹を満たすだけでなく、「この島で過ごす」という体験そのものが心に残る、そんなひとときを与えてくれる。
岩屋洞窟で体験する、神秘と静けさに包まれたひととき
島の奥へと進むと、観光客の数も徐々に減ってきて、風景に自然の要素が色濃くなっていく。やがてたどり着くのが、江の島の最南端に位置する「岩屋洞窟」だ。古くから修験道の修行場とされ、龍神伝説が残るこの場所は、江の島の中でもひときわ神秘的な雰囲気を持っている。波によって長い年月をかけて削られた海食洞は、まるで自然が造り出した聖域のようだ。
洞窟の入り口では、ろうそくを手渡される。暗闇の中をその火を頼りに進んでいくという体験は、まさに非日常。現代の生活では味わうことのない「闇」の感覚が、視覚だけでなく、聴覚や嗅覚まで鋭く研ぎ澄ませる。ひんやりと湿った空気、壁を伝って流れる水の音、遠くで鳴る波の反響――そのすべてが五感に訴えてくる。
洞内には神話や伝説にまつわる展示物や石像も置かれており、信仰の対象としてこの場所が長く守られてきたことを実感できる。特に奥に鎮座する龍神像は、ひっそりと静かな存在感を放っており、自然と手を合わせたくなる気持ちになる。
また、洞窟の外に出ると、目の前には雄大な太平洋が広がっている。岩場に砕ける波の音を聞きながら腰を下ろせば、心の中のざわめきが静かに落ち着いていくのがわかる。江の島というと観光やグルメが注目されがちだが、こうした“静けさ”や“祈り”の場所があることで、旅に深みが増すのだ。
都会で過ごしていると、「静寂」という時間に触れることはなかなかない。岩屋洞窟でのひとときは、そんな“静かな時間”を大切にすることの意味を改めて教えてくれる。観光というより、まるで心の旅に出るような体験。それが、この場所の真の価値だと感じる。
海辺に広がる「稚児ヶ淵」の風景に、時を忘れて座る午後
岩屋洞窟から出て、そのまま海岸線を歩いていくと、やがて「稚児ヶ淵(ちごがふち)」と呼ばれる絶景スポットに辿り着く。ここは江の島の西側に位置し、岩場が広がる天然の展望台のような場所。遠くには富士山、眼前には広がる太平洋、そして足元には白波が打ち寄せる岩礁――そのダイナミックな風景に、思わず息をのむ。
稚児ヶ淵の魅力は、ただ「美しい景色が見られる場所」というだけではない。その場に座っているだけで、時間の感覚がふっと緩むような、不思議な空気に包まれているのだ。観光名所でありながら、人の流れが比較的落ち着いているため、午後の時間帯には静かに海を眺めて過ごす人の姿が多く見られる。
地元の人や釣り人たちがのんびりと腰を下ろし、波音に耳を澄ませている様子も、どこか穏やかで印象的だ。観光地でありがちな「見る」「撮る」だけの体験ではなく、「座る」「感じる」「流れる時間を受け入れる」といった、より深い旅の醍醐味がこの場所にはある。
また、夕方にかけては太陽が西の空に傾き始め、海面をオレンジ色に染め上げていく。刻一刻と変わる光の表情に、言葉を失ってただ見とれることもあるだろう。スマートフォンを取り出す手も止まり、ただその光景を目に焼き付けておきたくなる。まるで時間が止まったかのような静寂と感動が、心を優しく満たしてくれる。
稚児ヶ淵という地名には、かつて悲しい伝説も語り継がれているが、現在では癒しと安らぎの場として、多くの人に愛されている。江の島の中でも特に“何もしない”という贅沢を味わえる場所であり、旅の途中で一度立ち止まり、自分自身と静かに向き合うのに最適な時間が流れている。
ここで過ごす午後のひとときは、後から振り返ったときに「何をしたか」ではなく「どんな気持ちだったか」が記憶に残る、そんな特別な体験になるだろう。
サンセットクルーズで体験する、湘南の海がくれる魔法の時間
江の島の旅の締めくくりにふさわしいのが、湘南の海をゆったりと巡る「サンセットクルーズ」だ。江の島ヨットハーバーから出航するこのクルーズは、夕暮れ時に出発し、江の島や湘南の海岸線をぐるりと回りながら、日没の瞬間を海上から楽しむという贅沢な体験。波の音、船の揺れ、そして空と海が織りなす壮大な色彩の変化が、心に深く刻まれる。
船に乗り込むと、まず感じるのは風の心地よさだ。昼間とは異なる涼しさがあり、肌を撫でる風に潮の香りが混じって、自然のリズムの中に身を委ねる心地よさが広がる。ゆっくりと進む船の上では、街の喧騒が遠ざかり、代わりに波の音と鳥の鳴き声が響いてくる。普段の生活では決して感じることのない、静かで贅沢な時間だ。
そして、クルーズのハイライトはやはり日没。太陽がじわじわと沈んでいくその瞬間、空はオレンジから赤、そして紺へと変わっていく。海面に映るその光のグラデーションは、まるで絵画のようで、誰もが言葉を失って見入ってしまう。カメラを構える人もいれば、ただ目を閉じて風と光を感じる人もいる。どんな形であれ、この瞬間はきっと全員にとって「特別」な時間になる。
クルーズ自体は30分〜1時間程度だが、その濃密な体験は、1日を締めくくるのにこれ以上ないほどふさわしい。陸から見た江の島とはまた違う表情があり、旅の最後にもう一度、この島の美しさを再確認するような気持ちにもなる。
日常の延長にあるようでいて、確実に非日常を感じさせてくれるサンセットクルーズ。湘南の魅力を余すところなく味わいたいなら、ぜひこの特別な時間を船の上で過ごしてほしい。きっと、心の奥底にまで染みわたるような、あたたかな感動が待っている。
帰り道に立ち寄りたい、江の島駅近くの地元グルメ「しらす丼」
江の島の旅を終え、駅へと向かう帰り道。その足取りが少し名残惜しく感じられるころ、ぜひ最後に立ち寄ってほしいのが、江ノ島駅近くにある地元グルメの名店「しらすや」や「とびっちょ」などで味わえる「しらす丼」だ。旅の締めくくりとしてはもちろん、最後の“もうひと口の江の島”として、多くの人がここで再び満たされていく。
しらす丼は言うまでもなく、江の島を代表する名物料理だ。特に新鮮な「生しらす」は、漁が解禁されている春から秋にかけてしか味わえない希少なグルメ。透明感のあるつややかな見た目、口の中でふわっととろけるような舌触り、そしてほんのりとした磯の香りがたまらない。釜揚げしらすの優しい味とはまた違う、海の命をそのままいただくような特別感がある。
どの店も、しらすを主役にした多彩なメニューを展開している。生と釜揚げのハーフ&ハーフ、いくらやネギトロをのせた贅沢丼、卵黄と一緒にとろりと混ぜていただくアレンジなど、どれを選んでも間違いない美味しさだ。地元の漁師との強いつながりを持つお店では、その日一番のしらすを仕入れているため、鮮度と質には絶対の自信がある。
店内はどこもアットホームで入りやすく、一人でも、友人とでも、カップルでも安心して入れる雰囲気。店の人たちも気さくで、ちょっとした旅の話を聞いてくれたり、おすすめの食べ方を教えてくれたりすることも。こうした何気ない交流も、旅の最後の記憶として心に残る。
駅に戻る前のほんのひととき、地元の味を楽しみながら、今日一日を静かに振り返ってみる。最初に感じた海風や、シーキャンドルからの絶景、稚児ヶ淵で見た夕日、クルーズで感じた波のリズム――そのひとつひとつを思い出しながら味わうしらす丼は、ただの食事ではなく、まさに「旅の余韻」を噛みしめる時間になる。
江の島の魅力は景色だけではない。その土地の食を味わうことで、より深くその土地に溶け込むことができる。帰る直前にもう一度、江の島の“やさしい味”を感じることで、この旅は完璧なエンディングを迎えるだろう。
旅の終わりに感じる“ただいま”のような、心に残るあたたかさ
江の島での一日が終わり、再び江ノ電の駅に向かうころ、日が暮れ、空が群青色へと変わっていく。行きとは違い、帰りの電車では静かな満足感と少しの寂しさが入り混じる。だがその感情さえも、旅の一部として心地よく感じられるから不思議だ。たった一日の旅だったにもかかわらず、どこか遠くへ行ってきたような、深く豊かな時間がそこにはあった。
江の島は、観光地でありながらも、どこか“暮らし”の匂いを感じさせる場所だ。自然の美しさ、街並みの温かさ、人々の優しさ、そしてそこにある「静かな時間」。それらすべてが調和して、訪れる人の心をじんわりと癒してくれる。この島を歩いた記憶は、派手ではなくても、確かな温度を持って心に残り続ける。
旅というと、つい「どこか特別な場所へ行かなければ」と思いがちだが、江の島のような“近くて深い場所”が持つ力は決して小さくない。むしろ、そんな場所だからこそ、本当に必要としていた癒しや気づきが得られるのかもしれない。自分と向き合い、少しだけ肩の力を抜いて、自然と調和する。江の島の一日は、そんな時間を与えてくれた。
電車の窓から見える湘南の海は、すっかり夜の表情に変わっている。けれど、心の中にはまだ、あの橋の上で感じた風、展望台から見た広い空、フレンチトーストの甘い香りが残っている。そして不思議なことに、「また来よう」と自然に思えてくるのだ。まるでそこが自分の居場所かのように。
旅の終わりに、こんな風に思える場所があること。それ自体が、日常に戻る力になる。そして、何度でも繰り返し訪れたくなる。江の島は、そんな“ただいま”のような安心感を与えてくれる場所だと、心から感じた。
まとめ
今回の江の島の旅は、日帰りとは思えないほど濃密で、静かで、豊かな時間に満ちていた。都会から電車でわずか1時間という距離に、これほどまでに深く心を癒してくれる場所があるということ。それは多くの人にとって希望にもなるだろう。
駅に降り立った瞬間の空気、弁天橋の風景、海と空が広がるシーキャンドル、やさしい味のフレンチトースト、心落ち着く古民家カフェ、神秘に満ちた岩屋洞窟、静かに広がる稚児ヶ淵の海原、そして最後に味わったしらす丼――どれもがこの旅の大切な一部として、心に刻まれている。
江の島は、何度訪れても新しい発見がある。そしてそのたびに、少しずつ自分の中の景色も変わっていく。忙しい毎日に少し疲れたら、またこの島を訪れてみてほしい。きっとまた、変わらないやさしさと静けさが出迎えてくれるはずだ。